プリント基板用防湿コーティング剤の種類や特徴について解説!
更新:2025.6.3 公開:2019.1.15
プリント基板は電子機器には欠かせないコンポーネントです。プリント基板を湿気から守るためには、防湿コーティングを施すことが重要となります。プリント基板の防湿コーティング剤には、幾つかの種類があり、それぞれに特徴があります。
本記事ではプリント基板用コーティング剤の種類や特性、おすすめの防湿コーディングについて紹介致します。
1.基板保護用コーティング剤全般
様々な電気機器に使用されるプリント配線板や実装部品では、以下のような物質の存在や現象が回路の短絡や断線、電流漏洩などの不具合を引き起こすことがあり、機器の動作不良や故障の原因となります。
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★結露
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★浸水
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★金属マイグレーション
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★硫化水素や塩化水素など酸性物質
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★リチウム電池電解液
コーティング剤の樹脂皮膜によって、これらの物質や現象から回路を遮断・保護することによりトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
プリント配線板や実装部品の保護用コーティング剤としては、常温型フッ素コーティング剤をはじめとして、ウレタン系、アクリル系、シリコン系、オレフィン系など様々な樹脂を皮膜成分とするコーティング剤が長年にわたって使用されてきました。
2.基板用防湿コート剤の必要性
プリント基板を守るためには、防湿コーティングが欠かせません。ここでは、基板用防湿コーティング剤を使用する必要性を解説します。
・異物の付着を防ぐ
基板用防湿コーティング剤には、塵やホコリなどの異物の付着を防ぐ効果があります。プリント基板に異物が付着すると、ショートや接触不良の原因となり、製品が正常に作動しなくなります。
・化学的な腐食を防ぐ
使用環境によっては化学物質の影響を受け、プリント基板が劣化しやすくなるケースがあります。基板用防湿コーティング剤で被膜を作ることにより、化学的な腐食を防ぐ効果も期待できます。
・絶縁効果を高める
防湿コーティングを施すことで、回路の接続部分を保護し、絶縁を強化することができます。ショートや漏電はプリント基板の損傷に繋がるため、高い絶縁性が求められます。
・耐久性を高める
コーティング剤の被膜により、摩擦や傷など物理的な刺激から基板を保護し、耐久性を向上させます。プリント基板の耐久性が高まれば、安定した性能の発揮と製品の寿命の延長が期待できます。
3.基板用防湿コート剤の種類と特性
この項では基板用防湿コーティング剤の樹脂別の特性について考案したいと思います。
3-1.ウレタン系・アクリル系
自動車のエンジンコントロールユニット(ECU)基板に長年の実績があり、基板用コーティング剤としてはスタンダードに使用されています。ですが、以下のような問題があります。
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1.防湿性があまり高くないので、保護機能を得るためには高膜厚が必要となります。その結果、基板の重量が増加します
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2.耐酸性も高くないので硫化水素などの酸性物質から基板を保護することができません。
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3.引火性有機溶剤を使用しておりますので、火災や爆発の危険性や中毒などの健康影響などがありあり、法的には以下のような管理が義務付けられています
消防法
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①危険物数量管理(法定数量を超える使用または保管の場合は危険物取扱所・危険物貯蔵所の認定が必要となります。)
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②換気扇や照明器具などの電気機器が防爆仕様である必要があります。
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③危険物取扱責任者の選任
安衛法
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①取扱者の定期的健康診断(半年ごとの有機溶剤検診)
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②作業場の定期的環境測定
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③作業現場での標識表示
3-2.シリコン系
RTVが中心でポッティング剤としても使用されるタイプなど多種類の製品があります。
皮膜がゴム状の柔軟なタイプで、低温でもしなやかなためクラックを生じる危険性が少なく、多方面に実績があります。ポッティングに使用した場合は基板全体をブロック状に固めることができ安心感があります。
シリコン系の短所としては、以下のような点が挙げられます。
- 1.湿度を通しやすく、防湿性は前述のウレタン系アクリル系よりもさらに劣るので、膜厚を高くして防湿機能を得ることになります。基板重量は大幅増となります。
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2.タイプによっては低分子の環状シリコン化合物(オイル状物質)が発生拡散いたします。スイッチ接点などの接触不良の原因になることもあります。最近では環状シリコン化合物の環境への拡散が問題視されています。
- 3.使用現場が汚れるので、取り扱い作業者が嫌がります。
- 4.ポットライフを持つものがほとんどで、ライフ切れにより無駄を生じることがあります。
3-3.オレフィン系
ゴム状皮膜を形成します。低温下でもクラックが発生しにくく防湿性も高いです。
短所としては、以下のような点が挙げられます。
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1.有機溶剤を含有しており、取り扱い時には上記のウレタン系・アクリル系と同様な管理が法的に義務付けられております。
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2.前述のウレタン系・アクリル系、シリコン系、フッ素系は皮膜の不燃性規格UL-94 のV0(樹脂片の燃焼が持続せず。自然に消化する)という不燃性を保持しておりますが、オレフィン系の一部の製品では不燃性では無いものがあります。
3-4.フッ素系
常温型フッ素コーティング剤については、ほかの樹脂コーティング剤に比べて下記のメリットがあります。
☆同じ膜厚で比較した場合、ほかの樹脂に比べて数倍以上の防湿性や耐酸性がある。いいかえるとフッ素系コーティング剤は他樹脂よりも薄い皮膜で効果を発生するので、塗布後の基板重量が少なくて済みます。
☆皮膜に耐酸性があり、リチウム電池電解液や硫化水素などからも基板を保護することができます。
☆引火性がないので安全性が高く、消防法 安衛法有機則など法的規制もありませんので管理が容易で、設備投資も防爆性不要で余分なコストがかかりません。
☆低粘度で塗布が容易で低臭気なので、作業環境にも優しいです。
従来では、フッ素系コーティング剤として撥水撥油用に開発された商品が流用されてきました。フッ素系撥水撥油処理剤は皮膜が脆いので、マイナス20℃から100℃が繰り返されるサーマルショックでクラックを生じやすく、数ミクロン以上に膜厚を上げられないデメリットもありました。膜厚と防湿性・耐酸性は比例するため、せっかく防湿性・耐酸性の高い樹脂を用いていても十分な性能を発揮できないジレンマを生じるわけです。
弊社では、その弱点を克服すべく基板用防湿コーティング剤として専用の分子設計でフロロサーフ FG-3000シリーズを開発いたしました。このシリーズは20ミクロン以上の皮膜厚でも、サーマルショックでクラックを生じない柔軟な皮膜となっており、フッ素樹脂が本来有する高防湿性と高耐酸性が十分得られる膜厚でプリント配線板を強力に保護することができるようになりました。
4.基板保護用コーティング剤の選び方
基板を守るためのコーティング剤は、種類ごとに特性が異なり、使用する環境や求められる性能に応じた選定が欠かせません。自動車や産業機械、屋外設置の機器、家庭用電子機器など、それぞれの使用条件に適した樹脂系を選ぶことで、防湿性・耐酸性・安全性を確保しつつ、コストやメンテナンス性とのバランスも図ることができます。
4-1.自動車・車載機器
自動車のエンジンコントロールユニットや制御基板は、高温・低温を繰り返し、常に強い振動にさらされます。そのため、基板コーティングには、柔軟でクラックを起こしにくいシリコン系や、長年の実績があるウレタン・アクリル系がよく用いられてきました。ただし、シリコン系やウレタン・アクリル系は、防湿性や防水性はあまり高くなく、酸性ガスやリチウム電池電解液などについても影響を受けやすいという課題があります。
近年では、薄い膜厚でも高い防湿性と耐酸性を発揮できるフッ素系コーティングの利用も進んでおり、軽量化や省コストを両立させたい車載機器分野で注目度が高まっています。
4-2.産業機械・工場設備
工場内で稼働する産業機械の基板は、油煙や粉塵に加え、酸性ガスや化学薬品の影響を受けやすい環境で使われます。そのため、防湿性だけでなく、高い耐酸性や絶縁性が必要です。従来は、ウレタン系やアクリル系が使われてきましたが、酸性雰囲気下では十分な保護力を発揮しにくい面があります。
そこで、近年有効な選択肢となっているのが、フッ素系コーティングです。フッ素樹脂は数ミクロンの膜厚でも高い防湿性と耐酸性を維持でき、非引火性なので安全性が高いため幅広い分野の工場で使用できます。ウレタン系やアクリル系よりも薄い膜で効果を発揮できるため、使用量を抑えられ、トータルコストの低減にもつながります。
4-3.屋外設置の電子機器
屋外に設置される通信機器やセンサー、計測装置は、雨水の飛散や結露、昼夜の温度変動といった厳しい環境にさらされます。ゴム状の皮膜を形成するオレフィン系やシリコン系は柔軟性が高く、低温下でもクラックが生じにくいため従来は多く使われてきましたが、防湿性能の不足や環境汚染物質の拡散リスクが課題でした。
一方で、フッ素系コーティングは、薄膜でも数倍の防湿性能を発揮し、酸性ガスや湿度から基板をしっかり守ることが可能です。さらに、非引火性で管理負担が少なく、膜厚が薄くても効果を発揮できるため、軽量化ニーズにも対応できます。
4-4.家庭用電子機器
家電製品などの一般的な電子機器の基板では、大量生産に適したコストバランスの良いコーティング剤が求められます。
そのため、加工しやすく比較的安価なアクリル系やウレタン系が標準的に採用されてきました。いずれも実績が豊富で、標準的な室内使用環境では十分な防湿性を発揮します。ただし、耐酸性や耐久性が高くないため、使用環境によっては課題が残ります。
その場合には、より高性能なフッ素系が選択肢に入ります。フッ素系は安全性や作業性にも優れており、製品寿命の延長や信頼性向上を図れます。ただし、コスト的には他のコーティング剤よりもかさむため、製品特性や市場ニーズに応じて最適な樹脂系を選び分けることが重要です。
5.プリント基板に基板用防湿コーティングする注意点
プリント基板にコーティング剤を塗布する際には、下記の3点に注意が必要です。
・適切な施工環境の整備
・用途・使用環境に合ったコーティング剤の選定
・適切な膜厚の確保
それぞれについて、詳細を確認しましょう。
5-1.適切な施工環境の整備
コーティングする際は、コーティング性能が発揮される、かつ安全に塗布できる施工環境を整備する必要があります。
使用する防湿コーティング剤にもよりますが、湿度や温度が高すぎると十分な性能が発揮されません。また、防湿コーティングには、健康に悪影響を及ぼす有機溶剤が含まれるため、眼鏡や手袋などの保護具の着用や、十分な換気も重要です。
5-2.用途・使用環境に合ったコーティング剤の選定
一口に防湿コーティングといっても、用途や使用環境によって、適切なコーティング剤が異なります。例えば、湿度だけでなく、水分が直接飛び散ったり結露したりする環境で使用する場合、防滴性または防水性も必要になるでしょう。
「どの程度の防湿性が必要なのか」「他に重視すべき性能は何なのか」を考慮してコーティング剤を選んでください。希望に合うコーティング剤がわからない場合は、メーカーに用途や使用環境を伝え、相談するとよいでしょう。
5-3.適切な膜厚の確保
防湿コーティングの塗布では、膜厚が非常に重要です。コーティング剤の膜厚が薄すぎると防湿性能が十分に発揮されず、膜厚が厚すぎると重量超過といった問題に繋がります。また、塗布にムラがある場合も、本来の性能を発揮できません。
適切な膜厚を確保できるよう、製品の仕様をしっかり確認し、塗布量や手順を調整する必要があります。
5-4.防水コーティングとの違い
防湿コーティングと防水コーティングは、機能が異なります。防湿コーティングは、主に湿気から保護するために使用されます。防湿コーティングを塗布することで、空気中の湿度が高い環境や水蒸気の発生する環境において、精密機器やプリント基板を守ることができます。対して、防水コーティングは、水分の侵入を防ぐために使用されます。水滴や雨、その他の液体が製品や基板に侵入・浸透することを防ぎます。
防湿性と防水性は異なる特性なので、防湿性があっても防水性を持たないことも、その逆もあり得ます。湿度からも水分からも製品を守りたい場合は、両方の基準を満たすコーティング剤を使用する必要があります。
6.常温フッ素コーティング剤で効果的に防湿できる活用事例
最後に、常温フッ素コーティング剤がどのような現場で使用されているのかについてご紹介します。
常温フッ素コーティング剤は、高い防湿性と+αの優れた性能から、様々な分野・シーンで広く活用されています。生活のあらゆる面で機械化・IT化が進む現代では、製品の耐久性や品質の向上のために常温フッ素コーティング剤はなくてはならない存在となっている、と言えるでしょう。
6-1.スマホ等モバイル機器の基板保護
常温フッ素コーティング剤の使用が重宝されているシーンとしてまず挙げられるのが、モバイル機器の基板の保護です。
スマートフォンなどのモバイル機器では、軽量化は大きな性能の要素です。常温フッ素コーティング剤は数ミクロン程度の薄い膜でも効果を発揮するので、重量を増やしたくない場合に最適です。
また、モバイル機器には、短時間の充電で長時間動作する高性能なリチウム電池が搭載されています。モバイル機器に落下などの衝撃を与えた場合、電池電解液が漏洩して強酸が発生し基板が短絡することで発火する事故がしばしば発生します。フッ素コーティング剤は樹脂系コーティング剤の中でも、電池電解液に対する抵抗性が最も優れており、電解液の漏洩がおきても基板回路を保護するので発火事故を未然に防ぐことができます。
同様な理由(軽量化、電解液対策)で、最新の航空機の電子基板にも弊社のフッ素コーティング剤フロロサーフが使用されております。
6-2.屋外機器の基板保護
室外機器の基板保護
エアコンや温水器などの室外機器は屋外で使用されるため、部品や基板が劣化しやすくなります。そのため、室外機の基板についても、常温フッ素コーティング剤で保護を行うことで、モバイル機器と同様に防湿性によるメリットが得られます。雨風が直接当たる可能性のある室外機気は、より念入りな保護が必要となります。
汚れも付きやすい環境下での使用するため、常温フッ素コーティング剤の防湿性以外にも撥水撥油性・防汚性でしっかりと基板を保護することができます。
同様にLED看板やLED信号機の屋外機器の基板にも最適です。
まとめ
湿気や水分は基板回路を劣化させる大きな原因となっています。そのため、防湿コーティング剤は様々な分野のプリント基板に広く使われています。使用を検討する場合は、用途や使用状況に合わせて適切な防湿材が使い分けることが大切です。
特に常温フッ素コーティング剤は、防湿性能以外の機能にも優れており、多方面での活用が期待できます。
防湿コーティング剤の導入を検討する際は、対象製品が防湿性以外にも必要としている機能があるのかについても注目していただければ幸いです。
撥水撥油性、防汚性を兼ね備えた防湿コーティング剤は、フロロテクノロジー「フロロサーフ」を御覧ください
この記事を書いた人
代表取締役 伊藤隆彦
実務年数
33年
監修範囲
2.基板用防湿コート剤の必要性
3.基板用防湿コート剤の種類と特性
4.プリント基板に基板用防湿コーティングする注意点
5.常温フッ素コーティング剤で効果的に防湿できる活用事例
最終監修日
2025.6.3
経歴
1959年生まれ
三重大学で卒研としてフッ素系撥水撥油処理剤の改良合成を行いました。
卒業後コンタクトレンズの会社に就職。
8年間勤めた後、不思議な縁でフッ素化合物の世界に戻ることになりました。
以降業界歴通算33年を超えました。