更新:2026.6.29 公開:2020.6.29
電子基板の保護方法として検討される基板コーティングですが、「どの材料を選べばいいのか」「どこまで必要なのか」「コストに見合う効果が得られるのか」といった点で迷うことは少なくありません。
基板コーティングは、湿気や塩害、薬品、汚れなどの影響から基板を保護し、回路の絶縁性を維持するための処理です。不具合を未然に防ぐための予防設計として採用されます。ただし、用途や使用環境によって必要性や適した材料や施工方法は異なります。
本記事では、基板コーティングの基本情報から、材料ごとの違い、選び方、施工時の注意点までを解説します。
目次
1.基板コーティングとは
基板表面にハロゲン成分(塩素など)が存在する場合、空気中の湿気と反応して基板上の銅パターンから銅イオンが析出し、電子と結びつくことで銅に戻る現象(イオンマイグレーション)が発生します。このイオンマイグレーションが繰り返されることにより新たに銅の配線ができてしまうことがあります。空気中の湿気と銅パターンの接触を防止するために絶縁性の樹脂で実装基板をコーティングすることが行われます。
また、実装基板上のほこりや結露水などの汚染物質から保護し、電流リークを防止する意味でもコーティングが必要になってまいります。
特に信頼性が要求される自動車用基板、業務用機器基板や下記のような劣悪な条件で使用される機器の基板にはこのコーティングが必要になります。
- ・湿度が高く、結露が発生しやすい環境
- ・海沿いや屋外など、塩害や腐食の影響を受けやすい環境
- ・油分や薬品にさらされる工場・製造現場の環境
- ・ホコリや粉塵が多く、異物が付着しやすい環境
- ・温度変化が大きく、基板に負荷がかかりやすい環境
- ・メンテナンスしにくく、長期間安定した動作が求められる環境
2.基板コーティング剤の種類と特徴比較
基板コーティング剤には複数の種類があり、それぞれ得意とする性能や適した使用環境が異なります。ここでは、代表的な材料を耐熱性・耐薬品性・薄膜性・リワーク性・コストの5つの観点で比較します。
| 種類 | 耐熱性 | 耐薬品性 | 薄膜性 | リワーク性 | コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| アクリル系 | 低〜中 | 低 | 高 | 高 | 低 |
| ウレタン系 | 中 | 中〜高 | 中 | 低 | 中 |
| シリコーン系 | 高 | 中 | 中 | 中 | 中〜やや高 |
| エポキシ系 | 高 | 高 | 低 | 非常に低 | 中 |
| フッ素系 | 高 | 非常に高 | 非常に高 | 高 | 高 |
※本表は一般的な目安であり、製品によって異なる場合があります。
2-1.アクリル系
アクリル系は、最も一般的で導入しやすいコーティング材料です。乾燥が速く、スプレーや刷毛など簡易的な施工方法にも対応できるため、試作や小ロットでも扱いやすい点が特徴です。薄膜で均一に仕上げやすく、初めて基板コーティングを導入する場合にも選択されやすい材料といえます。 一方で、耐薬品性や耐久性はそれほど高くなく、油分や溶剤が付着する環境では性能が低下する可能性があります。また、長期間の使用では被膜の劣化が進みやすく、厳しい環境条件下では保護性能が十分に維持できないケースもあります。 そのため、屋内機器や比較的環境負荷の低い用途、軽度な防湿対策を目的としたケースに適しています。コストを抑えながらコーティングを導入したい場合や、メンテナンスやリワークを前提とする用途で採用されることが多い材料です。
2-2.ウレタン系
ウレタン系は耐薬品性に優れており、油分や溶剤が付着する環境でも安定した保護性能を発揮します。被膜の密着性も高く、外部からの汚染に対して比較的強い耐性を持つため、工場設備や産業機器などで採用されることが多い材料です。
一方で、硬化後の被膜は強固で、除去が難しいという特性があります。そのため、修理や改修の際には作業負荷が高くなりやすく、リワーク性は低い傾向があります。また、施工条件によっては厚膜になりやすく、膜厚管理にも注意が必要です。
このような特性から、メンテナンス頻度が低く、長期間そのまま使用する前提の機器や、薬品・油分の影響を受けやすい環境での使用に適しています。コストと耐環境性のバランスを取りたい場合に選ばれる傾向があります。
2-3.シリコーン系
シリコーン系は耐熱性と柔軟性に優れており、温度変化が大きい環境でも安定した性能を発揮します。被膜が柔らかく、熱膨張や振動によるストレスを吸収しやすいため、クラックが発生しにくい点が特徴です。
一方で、他の材料と比べて表面が柔らかいため、物理的な摩耗や外的なダメージにはやや弱い傾向があります。また、塗布後の表面状態によっては汚れが付着しやすくなる場合もあり、使用環境によっては注意が必要です。
このような特性から、車載機器や電源基板など、温度変動や振動の影響を受けやすい環境での使用に適しています。その他、耐熱性と柔軟性を重視したい場合にも選ばれます。
2-4.エポキシ系
エポキシ系は硬く強固な被膜を形成し、防水性や耐衝撃性に優れる点が特徴です。外部からの物理的ダメージや水分の侵入を防ぐ性能が高く、機械的強度を重視する際に適しています。
一方で、被膜は厚くなりやすく、一度硬化すると除去が非常に困難です。そのため、リワークは非常に困難であり、修理や部品交換が必要になった場合の対応が難しくなります。また、柔軟性が低いため、応力がかかる環境では割れや剥離のリスクも考慮する必要があります。
このため、長期間固定して使用する機器や、外部からのダメージを受けやすい環境での使用に適しています。メンテナンス性よりも強度や耐久性を優先する用途で採用される材料です。
2-5.フッ素系
フッ素系は薄い被膜であっても高い防湿性能を発揮します。そのため軽量機器の重量増加を抑えることが可能になります。また、放熱的にも有利になります。
さらに耐酸性があり、リチウム電池の電解液に耐性があり、リチウム電池近辺の基板保護によく使用されます。
フッ素系は非引火性のため、塗布作業現場での危険物取扱所認定や設備の防爆が不要など安全管理面が他の樹脂コーティング剤に比べ軽微で済みます。
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3.基板コーティング剤の選び方
コーティング剤の選定は「使用環境」と「優先する性能」によって決まります。重要なのは、すべての性能が高い材料を選ぶことではなく、必要な性能に優先順位をつけて、用途に適した材料を選択することです。
湿気対策のみであれば、アクリル系でも対応可能です。ただし、結露が発生する環境や長期使用を前提とする場合は、フッ素系などより安定性の高い材料が適しています。
工場内のように油分や薬品が付着する環境では、ウレタン系またはフッ素系が候補になります。コストを抑える場合はウレタン、性能を優先する場合はフッ素系が選ばれます。
温度変化が大きい環境では、シリコーン系が適しています。柔軟性があるため、熱によるストレスを吸収しやすく、長期的な安定性につながります。
また、修理や再加工の可能性がある場合は、リワーク性の高いアクリル系やフッ素系が適しています。一方で、防水性や強度を最優先する場合は、エポキシ系が選択肢になります。
4.基板コーティングの施工方法と注意点
基板コーティングは膜厚によって絶縁や耐マイグレーション性が左右されるため、一定の膜厚でコーティングする必要があります。そのためには工法を十分検討する必要があります。
施工方法とそれぞれの注意点を解説します。
4-1.スプレー塗布
スプレー塗布は、コーティング剤を霧状にして吹き付ける方法で、均一な膜を形成しやすく、量産にも対応しやすい施工方法です。広い範囲を効率よく処理できるため、最も一般的に採用されています。
一方で、噴霧したコーティング剤は周囲に広がるため、塗布範囲のコントロールが難しいという側面があります。意図しない箇所への付着を防ぐためには、マスキングの精度が重要になります。
また、噴霧距離や角度によって膜厚が変わりやすく、端部や部品の影になる部分で塗りムラが発生しやすい点にも注意が必要です。均一に見えても、細部で被膜が不足しているケースがあるため、仕上がり確認は表面だけでなく立体的に行う必要があります。
4-2.ディップ(浸漬)
ディップ(浸漬)は、基板全体をコーティング液に浸す方法で、複雑な形状でも全体を均一に覆いやすいのが特徴です。スプレーに比べて膜のばらつきを抑えやすく、安定した被膜形成が可能です。
ただし、基板全体が液に触れるため、不要な箇所にもコーティングが付着しやすくなります。コネクタや接点など、被膜があると問題になる部分は事前に確実にマスキングする必要があります。
また、引き上げ時に液だまりや垂れが発生しやすく、部品の根元やエッジ部分で膜厚が過剰になるケースもあります。均一に仕上がる反面、コーティングが不要な箇所にも回り込みやすく、事前に塗布範囲を考慮しないと不具合につながる可能性があります。
4-3.刷毛塗り
刷毛塗りは、刷毛や筆を使って手作業で塗布する方法で、小ロットや試作、部分補修に適しています。必要な箇所にだけ塗布できるため、マスキングを最小限に抑えられる点がメリットです。
一方で、作業者によるバラつきが大きく、膜厚の均一性も確保しにくい点が課題です。特に、塗り重ねや塗布量の違いによって、同一基板内でも保護性能に差が出る可能性があります。
また、塗り残しや過剰塗布が発生しやすく、見た目では問題なくても細部でムラが生じているケースがあります。品質を安定させるには、作業手順の標準化と確認工程の徹底が必要です。
4-4.自動塗布(ディスペンサー)
自動塗布(ディスペンサー)は、専用装置を用いてプログラム制御で塗布する方法です。必要な箇所に必要な量だけ塗布できるため、材料ロスを抑えつつ高精度な膜厚管理が可能です。量産時に品質を安定させたい場合に適しています。
ただし、塗布経路や条件設定が適切でない場合、設定ミスによる塗り残しや過剰塗布が多くの製品で発生し、まとまった数の不良品を生みかねません。設備に依存する方法だからこそ、初期設定の精度が品質に直結します。
また、基板形状や部品配置が変わると条件の再調整が必要になるため、柔軟性にはやや欠ける側面もあります。導入時には試作段階での条件出しを十分に行うことが重要です。
FAQ
Q 基板コーティングは必要ですか?
Q フッ素系コーティングと他のコーティングの違いは?
Q フロロサーフはどのような基板に使えますか?
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